【Vol.7】
中国における商標冒認出願とその対策

中国商標法は、先願主義を採用しているため、香港、台湾をはじめとした中華圏で自社ブランドを展開すると、中国本土における自社ブランドの冒認出願の問題が生じる確率が増大します。

中国の現地代理人からも、世界的に知られたブランド名よりも、日本人には知られたブランド、つまり、中国ではあまり有名ではないが、日本ではよく知られたブランドが無断登録されると中国でのビジネスが危うくなる、これを企業の知財担当者の方々に説明して欲しいと念押しされました。

最近の事例でいうと、今年4月、鹿児島の芋焼酎「森伊蔵」「伊佐美」「村尾」が中国で無断登録されたことに対する異議申立が棄却されています。
これらの芋焼酎の銘柄は、幻の焼酎と絶賛され、日本ではよく知られたブランドとなっていますが、中国でも同様によく知られていたということは立証できず、結果として無断登録ではないと判断されました。

このように、一旦、中国で先取り的に商標権を取得された場合には、各種審判や、譲渡交渉を行うなどにより自社ブランドの中国での権利取得を目指すことになりますが、その時間的・金銭的・労力的な負担は増大であり、必ずしも商標権を取得できるとは限らず、自社の中国ビジネスの展開に多大な悪影響を与えます。
実際、経済産業省の実態調査によると、日本企業の約6割が知的財産権の侵害を受けていると報告されております。特に、インターネット上の侵害件数が約9割と年々増加傾向にあり、不正に商標登録された事案は、2010年度は、275件報告されており、3年前の2008年の113件と比較すると約2.5倍になっております。
中国政府も摘発強化による一定の成果は上がっているようですが、いまだ不適切と考える日本企業も多いと報告されております。
(http://www.meti.go.jp/press/2012/04/20120426005/20120426005.html)

また、日本経済新聞の記事によると、中国の知財紛争は、日本全国の裁判所が2011年に受理した知財訴訟の約100倍の件数に達するとのことです(日本経済新聞、2012年3月30日)。
その一方で、中国経済の成長が鈍化し、中国バブルが崩壊するのではとの憶測がささやかれていますが、それでもなお、1年で増える中国のGDPはオーストラリア1国のGDPにも匹敵するといわれており、アジア地域でビジネス拡大を狙う企業にとって、中国への事業展開は必須と言わざるを得ない状況にあります。

そうはいっても、海外での商標権取得にはそれなりに費用がかかり、なかなか踏み切れないところではあります。しかし、冒認出願への事後的な対処により膨大な労力を払うことを思えば、中国への商標出願による事前的な対策など微々たるものでしかありません。
アジアでの事業展開を想定している日本企業は、できるだけ早くに中国での商標登録出願を行うことが最良の選択であるといえます。

ジェトロ北京センターが推奨する対応策

ジェトロ北京センター知的財産権部「中国商標権冒認出願対策マニュアル(2009 年改訂増補版)」においても、具体的な対応策として次のように説明されています。

1 適時の商標出願・登録を行うこと
まず、当たり前のことであるが、中国等で商標の出願・登録を適時に行うことである。

日本で事業展開を開始する際に、中国の事業展開を想定しているのであれば、日本での商標出願と合わせて中国での商標出願を行うことが必要である。日本の事業展開の状況を見ながら中国での対応を検討するという選択肢もあるが、日本の情報はすぐに中国に伝わっていくという現在の状況に鑑みると、日本での事業展開と合わせてグローバルなブランド戦略を立て、適時に必要な商標出願を行う体制を整備しておくべきである。
中国等で商標出願をする際には、ブランド名を日本のものと同じにするのか、若干の変更を加えたブランド名とするのか、全く異なるブランド名とするのか等の点について、徹底的に検討しておく必要がある。同じ漢字から構成される言葉であっても、日本語と中国語では意味やイメージが異なることは多い。また、日本では有名な地名や人名等であっても、中国ではほとんど知られておらず、造語とみなされてしまうことも少なくない。このような様々な事情を考慮して、中国でのブランド展開を考えていくことが必要である。

香港・マカオ・台湾において商標出願をする場合、これらの地域だけでなく、中国大陸でも商標出願を行うことが肝要である。なぜなら、香港・マカオ・台湾と中国大陸は、1 つの中華文化圏として捉えることができ、香港・マカオ・台湾のいずれかの地域で有名になった日本のブランドやキャラクターは、同じ中華文化圏である中国大陸においても、すぐに有名になる可能性があり、冒認出願を行う第三者が出現する可能性が非常に高いといえるからである。
また、日本企業が事業展開する予定のある指定商品・役務で出願するだけでなく、被服、履物、日用品など、冒認出願をした第三者が比較的容易に製造できる物に関しても、指定商品・役務を広めにして出願しておくことが望ましい。
万が一、先に第三者に日本企業等のブランドを冒認出願されてしまった場合でも、@他の指定商品・役務について出願しておくこと、A当該ブランドに他の言葉を付加したりロゴマーク化したりして出願することが考えられる。 将来的には、企業だけでなく、地方自治体や協同組合等の団体においても、ブランドを含めた知的財産権の戦略及び管理体制を早急に検討していく必要があろう。

2 著作権登録
中国での著作権登録は、@冒認出願への対抗措置を講じる上での根拠資料となる可能性があること、A商標の出願・登録に比べて、手続きに要する時間や費用が少なくてすむこと、といった利点があり得る。また、中国だけでなく、「著作権保護に関するベルヌ条約」加盟国である日本における著作権登録であっても、「冒認出願」への対抗手段となり得る。よって、費用対効果の観点から商標の出願をしない場合であっても、著作権登録を行うことは検討に値しよう。
但し、著作物といえるためには、ある程度の創作性が必要であるため、例えば、単なる文字商標の場合は、著作物性が認められにくいという問題がある。

3 日本のブランド等のリストの提示
中国で冒認出願が多い理由の一つとして、中国の商標審査官が日本のブランドやコンテンツ等をあまり知らないという事情もあり得る。例えば、日本の業界団体が定期的に日本のブランドやコンテンツ等のリストをまとめて中国の商標審査官に提出する等の方法をとることにより、「中国の商標審査官が日本のブランドやコンテンツ等をあまり知らない」という現在の状況を改善し、冒認出願を減らす効果が期待される。

4 出願情報の共同監視体制の構築
各企業が定期的に自社ブランドの冒認出願を監視する等して個別に対応することの他、業界団体等が一元的に冒認出願を監視し、各企業に情報をフィードバックするような体制を構築することが考えられる。
数多くの冒認出願を行っている悪質な者のブラックリストを作成し、関係当局に厳正な対処を求めることも考えられる。



掲載日:2012.07.09
作成者:泉澤
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